東京高等裁判所 昭和26年(う)531号 判決
次に所論は被告人が検察事務官の取調をうけた当時体温三八度八分の発熱状態にあつた旨主張するが、被告人の原審公判廷(第一〇回公判期日)における供述によれば、検察庁に行つたときは三七度位の熱であり帰宅後熱を計つたら三七度一寸あつた(所論は原審公判調書中三七度八分とあるのを三七度一寸と訂正したのは誤りであると主張するけれどもこれを認めるに足る証拠はない)というのであるから、たとえ所論のように被告人が平熱は三六度である旨思い違いをしていたとしても、これをもつて当時被告人が所論のように三八度八分も発熱していたものとは認められない。その他原審が取り調べた証拠に現われた事実によつては当時被告人が三八度八分の発熱状態にあつたと認めることはできない。とすれば被告人がたとえ当時三七度一寸の発熱状態で取調をうけたとしても、この程度の発熱状態では経験則上普通人ならば未だ取調をうけてこれに耐えることができない程の心神状況には達していないものと認められるので、このこと丈で被告人の当時の供述には任意性がないものとは認められない。その他原審が取り調べた証拠に現われた事実によつては被告人の右検察事務官に対する供述が任意性のないものであるとは認めることができない。